熟女とオーストラリア5
ブリスベンの中心地からそれほど遠くないところにモートン島という島がある。砂でできた島としては世界第二位の大きさを誇り(ちなみに第一位のフレーザー島もブリスベンから近くにある)、手軽な観光地となっている。
ブリスベン港からフェリーで1時間ほど。朝早く起きて私の家の近くに泊まっていた4人をピックアップしブリスベン空港へ向かった。
天気も非常にいい。ブリスベンがあるクイーンズランド州というのは全般的に天気がよく、別名サンシャインステートと呼ばれている。無理やり日本語に直すと太陽州という感じだろうか。つまりたまに激しい降雨があったりするが、基本的に晴れていることが多い。だからこの日天気がよかったのは別に熟女連の日ごろの行いがよかったからというわけではなく、当たり前のことといえば当たり前のことである(かといっておばちゃん達の別に日ごろの行いが悪いわけではないだろうが・・・)。
普段乗らない交通手段に乗るとテンションが上がるという法則がある。例えば新幹線や飛行機が代表格である。新幹線の売り子やフライトアテンダントのように毎日乗っていればもはやテンションが上がるということはないだろうが、一般人のようにたまにしか乗らないということであれば誰でも楽しくなってくる。自慢したくなってくる。私は正直言って新幹線か飛行機に乗ったら自慢することにしている。「俺今回大阪来たの新幹線やで。途中で弁当食べたった」と。「いやーこないだ海外行ったから飛行機乗ってん。結構揺れてたわ。すごいやろ」と。
何が言いたいかと言うとフェリーに乗って熟女もテンションが上がっていたということである。1号はモートン島へ向かう船を見て「いやっ、船やんか」と鋭い感想を述べていた。
「いやっ、船やんか」
「いやっ、海やんか」
「いやっ、メガネばっかりやんか」
ブリスベンからアルゼンチンの方向に向かってしばらくするとモートン島が見えてくる。天気がいいこともあって非常に海の色が綺麗だ。
まず目に入るのはペリカンだ。ペリカンを生で見たのは初めてである。実物で見たペリカンはマンガやイラストで見る以上にコメディチックな顔をしている。特に目がおもちゃみたいだ。熟女は「あの顔の中でも男前とか不細工とかあるのかしら」と言っている。生物学的に興味深いテーマである。
モートン島は島全体がリゾート施設のようになっていて、宿泊施設やバーがあるだけではなく様々なアクティビティが用意されている。まず最初にトライしたのはヘリコプター。ヘリコプターに乗って島の上空から島を見ることが出来る。1号はヘリコプターを見て「いやっ、ヘリコプターやんか」とまた鋭い感想を述べている。
「いやっ、ヘリコプターやんか」
教訓14 熟女の感想は鋭い
まずは私と1号がトライ。ベルトをして安全確認をするとあっという間に上空へ上がっていく。何メートルくらいなのか分からないが、かなりの高さである。高度とともにテンションが上がる1号。「うわっ、めっちゃ高いで。あんたも下見てみ!ひゃー、きれいわ!」。
確かにヘリコプターから見る景色はまさにこれぞ南国と思わせる美しさだ。エメラレルドグリーンの海と白の砂と深緑の森のコントラスト。
空の方に目を向けると海の青さと空の青さが一体化していてどこが境目なのか分からない。
ヘリコプターの操縦士から「ほら、あれがジュゴンだぞ」と指差されたとことに確かに生き物が見える。あれが本当にジュゴンなのかどうか分からないが、とりあえず1号に「ほら!ジュゴンやで!ジュゴン!ジュゴン見てみ!」と声をかける。すると「いやー、ほんまやなあ。見えるなあ。来てよかったなあ。さすがオーストラリアやなあ」と感動していた。ジュゴンを見て喜ぶ1号を見て喜ぶ私。親孝行をしている気がする。
かすかに見える黒いのがジュゴン(らしい)。
ヘリコプターを降りて次は2号3号4号がチャレンジ。飛び立っていく3人を見ながら「いやー、がんばってきてねー!」と手を振った後、ボソッと1号が「あんたがさっき必死なって言うてたジュゴンってなんやの?生き物かいな。よう分からんわ」と先ほどの私の感動をあっさりと吹き飛ばしてくれる。要はジュゴンを知らないのだ。そのくせ戻ってきた2号たちに「ジュゴン見れた?」とか聞いている。
教訓15 おばちゃんはうなづいてても適当に話を合わせてるだけ
ヘリコプターの次は砂すべり。
既に書いたようにモートン島は砂で出来ているので砂漠とまでは行かないが砂丘がある。バスに乗り込んで奥地の砂丘に行く予定なのだが、待ち合わせ時間になっても同乗するはずの別のグループが現われない。オーストラリアなら時間通りに人が現われなくてもただ待っていればいいのだが、熟女連は生粋の日本人であるため、段々バスを待ちながらイライラしてくる。「その人らほんまに現われんのかいな。ちょっとあんた、聞いてきて」と状況を聞きに行かされる。そこでスタッフに聞きに行っても「もうすぐ来ると思うのですが・・・」と言われるだけ。なんだかんだで30分ほど待ってやっと現われたのは20人くらいのインド人グループ。何食わぬ顔してバスに乗り込んでいくが熟女連も「インドの人らやったらしゃーないわ」となぜかインド人は遅刻特別扱い。
やっと現われたインド人たち。
砂丘は異常に暑い。暑いというか熱い。
植物があることがどれほどありがたいことかを痛感しつつ、砂の上を歩く。要は雪上のソリと同じで高いところから板に乗って滑り落ちるというシンプルな遊びなのだ。
目に砂が入らないようにゴーグルをする熟女連。続いてすべり方のレクチャーを受けて板を担いで砂の上を上がっていく。
まずはインド人がチャレンジ。うまい。インド人は砂すべりがうまい。
続いて熟女連がチャレンジ。トップバッターは2号。こういうときに2号は度胸が据わっている。
動画で見ると分かりにくいがなかなかの高さがあり多少の勇気を要する。
そこそこの出来だと思う。
次4号。若いだけあってまあまあ。
3号。キャラと違って勢いを感じさせない滑りである。
最後は1号。
予想通り直前になってダダをこね始めた。怖くて出来ないというのだ。もうみんなやってるからと無理やり後押ししてやらせたところ、意外にもうまい。シャーッと滑っていく。1号曰く「私やったら出来る子やから」
一番上手だった人は最優秀賞をもらえることになっているが、その賞は残念ながらインド人に獲られてしまった。
そして昼食を食べ、いよいよ本日のメインイベント、パラセーリングの時間がやってきた。
パラセーリングがどういうものか知っているだろうか。こういうレジャーもの全般に弱い私はこの日までパラセーリングがなんだか知らなかった。1号が遠くに浮かぶパラシュートを見て「あれ、面白そうやん。やってみいひん?」と言ったから、初めて「あれなに?」という話になり、トライしてみることになったのだ。遠くから見る限りそれほど高度があるようにも見えないし、下が海だからそれほど危険な感じもしない。これは私にもできる、と1号は思ったのだろう。
小型のボートに私と熟女連4人、夫婦一組、おばちゃんの女性二人組みと3グループが乗り沖の方に進んでいく。最初に挑戦したのは夫婦。背中にパラシュートをつけてボートから離れるとどういった仕組みか体が空に浮き上がっていく。気がつけばすぐにボートから離れてだいぶ遠くに行ってしまった。どれくらいの高さから聞いたところ「100メートルくらいあるよ」という。100メートルというとビルの高さ25階くらいである。本当にそんな高いのだろうか。そんなところに紐とパラシュートだけで浮き上がっているのはどうにも心細いが大丈夫だろうか。
このときはまだ怖いと言いつつも笑顔を見せる余裕があったのだが…。
ただ戻ってきた夫婦や続いてチャレンジしたおばちゃん二人組みに聞いたところかなり楽しんだようだ。「Awesome!」とか「Excellent!」とか言ってる。
「これなら私にもできるかなと」と1号が安心し始めたので、このままでは面白くないと思い、脅かしてみることにした。「毎年空中から落下して5人死んでいるらしい」とか「下のサメは肉食で落ちたら食べられて死んでしまうらしい」とか1号に向かってぶつぶつ言いだしたのだ。「いやっ、ほんまかいな。怖いな。まあ死んだら死んだときのことや」というようなさっぱりしたリアクションを期待していたのだが、なんと恐怖のあまり1号が泣き出してしまった。
これは気まずい。周囲の外人もなぜ南半球の島のリゾート地で家族で楽しみに来ている集団のおばちゃんが急に泣き出したかを理解できておらず、顔に?マークがたくさん出ている。また泣き出した1号を見て2号3号4号が「あんたがいらんこと言うからや!」と私を責めてくる。南国で急に母親を泣かしてしまった私もオロオロするばかり。
そうこうしているうちに私と1号の出番がやってきた。時間の流れは容赦ない。「無理や!私サメに食べられたくない!まだ死にたくない!」と泣き叫ぶ1号にベルトがはめられていく。もう1号の気分はサメの餌である。係りの外人も泣き叫ぶ熟女にベルトをはめていかなければならない。なかなか辛い仕事だ。
教訓16 熟女は意外にも死の覚悟が出来てない。
今にも腰を抜かしそうな1号だったが、いよいよ離陸する瞬間がやってきた。
パラシュートを広げる。
パラシュートの色が綺麗。
離陸した。
ぐんぐん上がっていく。
不思議だが船から離れても海に落ちることなく、それどころかドンドン高度が上がっていく。
足場もなく宙ぶらりんの状態で海の上を漂っている感覚。
気持ちいいい!!
「ほらっ、見て見て、向こうの海綺麗やでー!」と言いながらパッと左を見ると1号が目をギュッと閉じ足を丸めている。体中に力が入っているのが分かる。「ちょっと、1号!せっかく上空におんねんから見てみ!」と言うとゆっくり目を開けて見ようとするのだが、少しでも下が見えると「私無理や!はよおろして!頼むからおろして!」と叫んでいる。
しかも下で引っ張っている船の運転手が面白い人で船とパラシュートをつなぐ紐をガンガン揺らしてくる。当然その振動が上に伝わり私たちのパラシュートが揺れる。するとこれまた当然1号が「ギャー!死ぬ!おろしてーー!!」と叫ぶのだ。うるさくて仕方ない。
私が「あれ下の人が紐ゆらしてるんやで」とタネを教えてあげると1号はさっきまでの泣き顔から打って変わって阿修羅のような顔になり「絶対許さへん」とつぶやいていた。お、おそろしい…。
10分ほどこれが繰り返されて終了。私はもっと長く上空にいたかったが、終わってからの母親は見ての通りぐったり。全く知らない外人の女性に介抱される始末。
続いてチャレンジした2号3号4号は同じ血を引いてるのかと思うくらい余裕の表情。1号とは対照的に終わったあとも「いやー!おもしろかったなあ!!」と終始笑顔だった。
上っていく2号3号4号。
終わってからこのままほっといたら死んでしまうのではないかというくらい憔悴した1号が「アイスクリーム食べたい・・・」とつぶやいたので、近くで買って休みながらアイスクリームを食べていると徐々に元気回復。「いや、ほんま怖かったわ!」と普段のテンションに戻ってきたので一安心。
教訓17 熟女は何かを食べさせると落ち着く
1日は長い。まだこれだけ遊んでもまだ夕方だったので最後はせっかく海に着たので海水浴。日本だとある程度の年齢になって海で水着になるのは恥ずかしがることがあるが、こちらでは体型や年齢などは関係ない。たまにトップレスの女性もいるくらいだ。誰も見てないのだ。そこで1号と3号も思い切って水着になっていた。
ここで一応お宝写真を公開しておこう。マニアもいるかもしれない。
と、まあ散々楽しんだ。
最後は夕日を眺めた。
夜8時にまたフェリーでブリスベンに戻り、またしばらくして日本に戻った。
熟女にとってはなかなかない海外旅行を十分に楽しんだと思う。これは私がこちらにいたからではなく、自分たちが楽しむ力を持っていたからだと思う。
教訓18 熟女は自分で場を楽しむことが出来る
私は熟女が帰ってホッとしたのは言うまでもないが、豆を食べたい気もする。